ザクロをあげれば家庭円満!

雑司ヶ谷鬼子母神は、本堂に奉納する絵馬にも趣があります。関東特有の古式な黒枠に、手作りの版画がなつかしい雰囲気。

 

 

 

安産・子育ての神様として知られる鬼子母神は、もともとは人間の子供をさらって食べる鬼神でした。これをやめさせようと、お釈迦様は1000人いた鬼子母神の子供のうち一人を隠したのです。子供を失う悲しみを知った鬼子母神は改心して善い神様になり、皆の子供を守ってくれる存在になりました。ですが、時には「好物」の味を思い出してしまうようです。いけないいけない、何か近い別のもので紛らわせなくては。それがこの絵馬に描かれた、ざくろ。仏教説話の中では、人間の肉の味がするとされています。つまりここでの絵馬は、お供えものと同じということ。悩める女性はぜひ鬼子母神に大好きなザクロをあげて、子供や家庭のために力を貸してもらいましょう。

 

たしかによくよく見るとグロテスクなざくろは、なんだか血のしたたる生肉っぽいような気もしてくるから不思議です。そんなわけもあってか、またザクロそのものには一つの実の中にたくさん種ができることから、世界各地で多産と豊穣の象徴とされています。雑司ヶ谷鬼子母神の本堂の格子には、このレトロなザクロの絵馬がたわわに掛かっていて、どこか昭和のお母さんを思わせるやさしげな雰囲気。母性豊かな鬼子母神が、それだけ多くの女性や子供を見守ってくれているのを感じさせてくれます。

 

ところで、雑司ヶ谷鬼子母神境内の武芳稲荷にも、手作りの絵馬が用意されています。

 

 

 

ここのお稲荷さんの鳥居は、ご神木の大銀杏を囲むように何本もめぐらされています。まるでその一角だけ異空間のよう。秋には大銀杏から降り注ぐ一面の黄金色に鳥居の赤が映える幻想的な景色が広がります。境内の駄菓子屋さん「上川口屋」もオススメ。今なお戦前そのままのたたずまいで、創業はなんと1718年。絵馬を小脇にかかえて気軽なタイムスリップを楽しんでほしい場所です。都会の中の非日常的な空間でリフレッシュすれば、願いも叶いやすくなるかもしれません。

 

 

目には「めめ」で目ヂカラを!

前回のような黒枠付きの古式絵馬を、もうひとつ。ちなみにこうした足つきの黒い枠は、関東地方に多い形です。寺社の軒先や賽銭箱の上などの溝にこの足を引っかけるように立て掛けて奉納されたりします(このブログのヘッダー画像ですね)。

 

 

これは「向かい目」とよばれる、江戸時代からある絵柄です。「め」という文字をこうやって並べてみると、なんだか「へのへのもへじ」の顔みたい。今でいう顔文字のような洒落っ気で、眼病平癒の願いを込めています。昔は眼病も今よりだいぶ治りづらかったわけですから、一見冗談のようでもそこに込められた思いは真剣だったはず。深刻な悩みを楽しくさらっと表してしまう江戸人のユーモアと、当時の形もそのままの丁寧な手描きの温かみに元気をもらえそう。

 

この絵柄は、大抵は薬師如来に奉納されます。薬師如来といえば病気平癒のご利益ですが、「十二大願の第一である光明普照」というのが経典にあるため、光といえば目ということで、眼病平癒を前面に押し出すことは多いようです。

 

写真の絵馬を出しているのは、東京都中野区の新井薬師梅照院。徳川の2代将軍秀忠の娘、和子の眼病がこの寺の霊験によって回復したため、江戸中で評判になったという由緒正しき御利益スポットです。今でも絵馬が当時のままなのは珍しく、喜ばしいこと。現代人にも目の悩みは尽きないし、目が元気なのは美しさの源です。ぜひともここで祈願して目ヂカラUPを!この絵馬を超ミニサイズにしたストラップ形のお守りもオススメですよ。

 

拝み絵馬で、祈りよ届け!

名だたる絵師の手になる大絵馬が豪華さを競うようになっていく裏では、庶民が切なる願いを託すための小絵馬も、着実にバリエーションを増やしていきました。人々のニーズに合わせて、色々な絵柄や形が生み出されていくというのは、今に至るまで同じ。

 

次回からはそういったバラエティ豊かな絵馬を1枚ずつ読み解いていきたいと思いますが、その前に、もうひとつの裏スタンダードと言うべき絵柄をご紹介しておきます。

 

 

祈る人物の姿は、いわば願い事をする人自身の分身。絵馬が機械で大量生産されるようになる以前には、庶民が神仏に奉納する絵馬としては最も一般的な絵柄と言っていいのがこれでした。馬と並んで、どんな神仏にも、どんな願い事にも使えるオールマイティーな絵柄。かつては、女性だけでなく男性、あるいは夫婦、家族などを描いたものもあり、このような絵柄は「拝み絵馬」とよばれています。

 

こうした手作りの絵馬が主流だった頃には、今のように願い事を文章にして書くということはありませんでした。それは神仏と自分だけの秘密で、絵とそこに込められた思いが神仏に直接メッセージを運んでくれると信じられていたから。名前も書かずに、年齢と性別だけが書き添えられていました。今でいうプライバシー保護的な効果もあったのでしょう。

 

上の絵馬は、今でも入手することができます。これを売っている場所がオドロキ。東京都府中市の大国魂神社の道路を隔てた向かい、「フォーリス」というショッピングセンターに入っている「中万」という文房具店なのです。旧甲州街道開通から続く老舗だそうです。文房具以外にも雑貨の豊富な楽しいお店でした。その一番奥の棚の片隅に、会計などに使うお堅い用紙と並んで、手作りの絵馬の束が!

 

この絵馬は、大国魂神社の境内にある宮之咩神社(みやのめ神社)に奉納されることが多いです。ここは安産のご利益で密かに知られており、御礼参り用の絵馬もあります。

 

 

無事産まれたということで、赤ちゃんが描き加えられていますね。こんなふうに、願い事を絵だけで伝えるというやり方もあるというわけです。現在、願い事は文章にするのが主流ではありますが、無地でもない限り、絵や形にも一定の役割があるはず。こうしてそこに込められた意味を見ていくのが、絵馬の面白みだと私は思います。

飾って開運!天狗の絵馬

絵馬って、そこらの神社仏閣でたくさん吊り下げられている、あの小さな板切れのことだよね?それを集めるって、そもそもどうよ?なんて言われること実は普通に多いです。そもそも持って帰ったらいけないんじゃないか、とか。

 

いやいや、そんなことはありません。ご安心ください。必ずしも願い事を書いてその場に吊るしていくものだけが絵馬というわけではないのです。

 

たとえばこちらの、なんともゆるい感じな天狗の絵馬。

 

 

武蔵第六天神社

 

これは埼玉県岩槻市の武蔵第六天神社で頒布されているもの。天狗は、ここで祀られている「第六天」という謎多き神様のお使いです。「向かい天狗」と呼ばれる、伝統的な絵柄。

 

この絵馬は、お札とセットで渡されます。そして、お札を玄関の内側に、絵馬を玄関の外側に飾って祀れば災難除け・家内安全・商売繁盛の御利益が得られると言われています。つまり、はじめから持ち帰ることが前提になっているわけですね。

 

これ以外にも、絵馬が家の玄関や神棚、あるいは畑や厩舎などにお守りとして掲げられるケースはたくさんあります。それに、そうでなくても最近の絵馬は旅の記念品としての要素が強いものも多いですし、寺社の授与所などで自分で買い求めさえすれば、願い事を書いて奉納するのも持ち帰るのも基本的には自由です。

 

ただし、信仰の証としての奉納物という要素が強ければ、持ち帰ってはいけないと言われる場合もありますので、各場所での指示には従ってください。また、奉納されているものを許可なく持ち去ってしまう行為は、泥棒と同じですから絶対にやめましょう(たまに誤解される向きもあるようですが、このような行為を私は一切しておりません!)。

 

こういった最低限のマナーを守りさえすれば、絵馬は願い事を託すもよし、絵柄を愛でるもよしの、身近な楽しい開運アイテム。

 

この天狗の絵馬も、とぼけた表情の手描き絵は見ているだけで心が和みます。そんな憎めないキャラの天狗コンビが懸命に家を守ってくれていると思うと、何ともいとおしい気持ちに。これで魔除けもバッチリ、幸せを呼んでくれそう。

 

 

ところで、武蔵第六天神社には、家に持ち帰ってお守りとして飾る絵馬だけではなく、いわゆるその場で書いて吊るしていく絵馬も何種類か用意されています。その中でも最も特徴的なのがこれ。向かい天狗の絵柄も踏まえつつ、男女の拝みという伝統的な絵柄と合わせたアレンジがなされています。

武蔵第六天神社・願掛け用

拝みというのは、そのものズバリ拝む人の姿を描いたもので、いわば祈願する本人の分身。この絵のような雲に乗って天から降りてくる神仏や、これを象徴する御幣も、よく一緒に描かれます。拝んでいるのが男女なのは、ここでは絵馬に願い事を書き込む人が男女どちらでもいいようにという配慮なのでしょうが、もしかしたら家族円満になるようにといった意味も込められているかもしれません。いずれにせよ、こういった絵柄を気軽に楽しめるようになっているのは喜ばしいことです。

ここ武蔵第六天神社は、第六天を祀っている神社がそもそも小祠まで含めて全国で22箇所と少ない中、無住や臨時ではなく常に社務所に人がいるという非常に珍しいところなのだそうです。それはこの神社が、これまた珍しい形の信仰に支えられているから。社殿の中には大天狗と烏天狗の宿っているというご神木があり、触れるとパワーをいただけるとか。境内には天狗の面もいたるところに飾られているので、見ているだけでも楽しくなってきます。

元荒川という大きな川沿いという立地も、大自然のエネルギーに満たされた気持ちの良い場所なので、いかにも天狗が元気に暮らしていそう。また、この神社で工具の「きり」を借りて、頭を突く真似をすると頭痛などがなおるといい、願いが叶ったら倍にして返すというユニークなならわしも現在まで続いています。そんなパワフルな場所で願いを込めれば、天狗と仲良くなれるかも。

メリークリスマス!

降誕!

メリークリスマス!

というわけでこれ、今月20日までやっていた成城大学民俗学研究所の絵馬展で展示されていたものです(写真撮影OK でした)。奉納されていた場所や経緯もわかっていないようですが、保存状態からしてもそんなに古くはなさそう。数ある展示品の中でも異彩を放っていました。上げた人の信仰する神様を身近に感じる気持ちがそこはかとなく伝わってくる一枚です。
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鏑木麻矢

Author:鏑木麻矢
文筆家。著書「ニッポンのおみくじ」(グラフィック社刊)もうすぐ発売。2012年5月から2014年12月まで、㈱H.I.S.公式ブログとして「麻矢の不思議カワイイ!?ご利益モノがたり」連載。現在、当ブログ内にすべて再録。縁起物をこよなく愛する。約20年来、巷間の多種多様なおみくじを自らの足で歩いて独自に収集・研究中。絵馬コレクターでもある。かつて、仏像マニアのテレビ番組に出たことも。全ては神社仏閣・仏像巡り趣味から始まっている。旅と町歩き・路上観察、手仕事なモノ(郷土玩具、民藝)、美術鑑賞(月に最低2回位は美術館博物館に行くのが癒し)、古風なもの、レトロな雰囲気などが好き。何にせよ、知られざる面白いモノゴトを自分なりに発見していきたいです。他、天然石・鉱石やトランプ・占いカード等、気まぐれかつ雑多な収集癖あり。以前、下手の横好きでオペラを習ったこともあったり(今も観賞大好き)。何でもとことんハマるのが生き甲斐。

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