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安井金比羅宮(京都)1・もうかり絵馬

田口ランディ「縁切り神社」にも登場する、京都有数の怖いスポットが東山の安井金比羅宮。
ここで絵馬っていったらやっぱり、「○子と△男の縁を切ってください」みたいなアレでしょ?
写真もつけちゃって、トドメにゃ釘とか打っちゃって。

はい。そういうの、普通にあります。ここの神社は。
(さすがに写真つきのは目に付かないよう神社側で処分してるそうです)
山のように折り重なって掛けられた絵馬の中身を、少しでも覗けばもう大体そんな感じ。

ついでに、縁切りって言ったら、なにも男女の縁のことだけじゃない。

悪い仲間との縁を切ってください。
病気との縁を切ってください。
酒との縁を切ってください。

クスリとの縁を切ってください。

・・・ダメ。ゼッタイ。(涙

はい。どれも、本当にあります。切実です。
どれもあまりにも切実すぎて、むせかえりそう。
ここには人々のリアルな情念がこれでもかというほど渦巻いている。

だけど、この神社、ただの怖いスポットで終わってはいない。
境内にはなんと、絵馬堂を改装した「金比羅絵馬館」なるミニ博物館を併設。
これは絵馬好きにはたまらない。実は私も、絵馬蒐集にハマったきっかけのひとつがここ。

安井金比羅宮の絵馬堂に古くから奉納されていたプロの絵師による大絵馬はもちろん、昔の一般庶民が趣向をこらして手作りした小絵馬から、最近の漫画家や著名人の描いた絵馬までが一堂に会する。

やはり縁切り・断ち物祈願というのは実生活に根付いた願いであるだけに、江戸時代から小絵馬のバリエーションも多く、絵柄もストレートでわかりやすい。現在の安井金比羅宮に掛かるおびただしい数の禍々しい絵馬たちも、言うなればこの直系の子孫。そんな営みを長い歴史のなかで見守ってきた場所だからこそ、博物館を作ってこうした文化を遺し伝えようという気概が生まれたのかもしれない。

授与所で出している絵馬にも、並々ならぬこだわりが感じられる。
こちらは江戸末期の縁起物だった「藻刈舟」という絵を、戦後に安井金毘羅宮が絵馬にして売り出したもの。
「もうかり絵馬」とよばれている。

もうかり絵馬

哀愁漂う背中がなんとなくイイ感じの渋い絵柄だが、この人は一体なにをしているのだろうか。



少し考えてみてほしい。








答え。






「藻を刈ってる」(もぉかってる)。


・・・駄ジャレやないかい。


しかも、これだけじゃない。

雨の中だから「降るほどもうかる」。
さらに「一芳」のサインで、「もうかる一方」の異名をとったという「藻刈舟」作者の画家、森一鳳にあやかる。


実に、三重にもわたる駄ジャレ。
絵馬の世界では願い事を駄ジャレに託すことは度々だが、ここまで手の込んだものは他にないだろう。

おまけに、商売繁盛の神でもあったこの金比羅宮のマーク「マルキン」の焼印を落とすことで、駄目押しのようにマルキン祈願の意味合いを持たせているというのだから、あきれるくらい見事な縁起かつぎである。

私はこの絵馬をみて、絵柄に託された願い事を読み解く面白さに目覚めた。

だが、現在ほとんどの寺社で普通に売られている絵馬には、こういった趣向をこらしたものは決して多くはない。時代とともに風化してしまいそうなかつての小絵馬の面白味を後世に伝え続けていくためにも、こんなふうに復刻して頒布するというのは、他でももっとやってほしいものだ。

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鏑木麻矢

Author:鏑木麻矢
文筆家。著書「ニッポンのおみくじ(グラフィック社刊)」発売中。2012年5月から2014年12月まで、㈱H.I.S.公式ブログとして「麻矢の不思議カワイイ!?ご利益モノがたり」連載。現在、当ブログ内にすべて再録。縁起物をこよなく愛する。約20年来、巷間の多種多様なおみくじを自らの足で歩いて独自に収集・研究中。絵馬コレクターでもある。かつて、仏像マニアのテレビ番組に出たことも。全ては神社仏閣・仏像巡り趣味から始まっている。旅と町歩き・路上観察、手仕事なモノ(郷土玩具、民藝)、美術鑑賞(月平均2回以上は美術館博物館に行くのが癒し)、古風なもの、レトロな雰囲気などが好き。何にせよ、知られざる面白いモノゴトを自分なりに発見していきたいです。他、天然石やらトランプ・占いカード類やら喫茶店マッチやらと、気まぐれかつ雑多な収集癖あり。以前、下手の横好きでオペラを習ったこともあったり(今も観賞大好き)。気になったらとことんハマるのが生き甲斐。

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