ファンシイダンスを読んだら禅寺見学しよう!

昨日、ふと思い立って鶴見の総持寺に行ってきました。駅からすぐで、なんかバカでかいけど、建物もほとんど近代だし、仏像鑑賞って感じでもないし、一見ごく普通の寺という印象。ですが、ここは曹洞宗大本山、永平寺の次にでかい禅寺。丁寧に見ていけば何かしら発見がある、はず!と思っての再訪でした。

三門を入るとすぐに総受付があり、一時間おきに内部拝観を受け付けています(最終は3時、400円)。この表示が目立たなくて、昨年の春ぐらいに知人と来て境内をさっと歩いただけの時には気付きませんでした。受付はオフィス風になっていて、若い雲水さんが10人くらい詰めています。こ、これはまさに岡野玲子の漫画「ファンシィダンス」の世界!?





ファンシィダンスは、80年代バブル期の目立ちたがり屋オシャレボーイな主人公が実家の寺を継ぐために彼女を娑婆で待たせつつ禅宗の大本山で修行し、厳しいながらも俗世の縮図のようなお寺ライフの中でしなやかに成長していくさまが赤裸々に描かれている漫画です。劇中では大本山は「浮雲山明軽寺」となっていますが、かなり永平寺っぽい(笑)。綿密な取材にもとづいているようで、その修行の様子はものすごくリアルです。それが話題を呼んで、映画にもなったほど。



ですが、それはこの漫画のほんの一面にすぎません。真骨頂はやはり、主人公たち修行僧がその特殊な世界と折り合いを付けていく様子の、どこまで本当なのかと首をかしげたくなるほどの赤裸々っぷりです。仲間同士でからかったり愚痴を言い合ったり、いかにして禁止されている食べものなどをこっそり入手するかに知恵をめぐらせたり、先輩僧侶とダマし合いをしたり、ときにはハメをはずしたり。そんな様子がまるで学校の体育会や一般組織のようなリアリディを醸し出しています。

以前何かの雑誌で読んだ日蓮宗のお坊さんのエッセイでは、荒行をすると無になるどころか剥き出しの我が現れてくるなんてことが語られていましたが、まさにそんな感じ。修行中に普通に死者が出る日蓮宗の荒行では食事も極端に少なく、たくあんの大小で喧嘩が始まったりするのもしょっちゅうだそうで。その荒行の内容の公開は禁じられている中で、しかも悟りだ無我だとカッコつける坊さんが多い中で、こんなことを正直に一般の寺社観光雑誌に書いてしまうこの方は本当に素晴らしいなと思いますが(すみません、今となっては本のタイトルも誰だったかもわからなくなってしまいました、情報求ム!)、宗派や修行の内容・形態によって色々と違いはあるにせよ、どうやら修行僧の世界って、本当にむしろエゴの縮図らしいのです。ただ、そんな現実をいかにしなやかに生き抜くか。それこそが、一種の悟りとも言えるのかもしれません。

ファンシイダンス劇中のひとつのキーワードであり、大本山の名前にもなっている「あ・かるい」というフレーズ。いかにもバブリー80年代という雰囲気はありますが、そこから出発して、またその同じ現実へ、全く違うまなざしをもって、心を開いて、戻っていく。そんな感覚を主人公と一緒に味わえることが、この漫画の本当の醍醐味だと思いました。それに、ほどよい腐女子テイストと作者の物事ナナメに見る視点が魅力です。岡野玲子さんは、実はファンタジーじゃないほうが面白いかもしんない。2巻の途中までの前振りが冗長なのがタマに傷ですが、投げずに読む価値はあります。なにしろ、この漫画で私の禅寺を見る目がかなり変わりましたから。

というわけでだいぶ脱線しましたが、総持寺の話に戻ります。禅宗大本山というのはとにかくだだっ広くて、迷路のようなので、内部拝観は必ずガイド付きになります。今回案内してくれたのは、20代後半くらいの割とガッチリしたお坊さんでした。私たち拝観者も、寺の建物の内部では修行僧のしきたり通り、彼の後ろについて一列で左側通行します。そして決められたポイントでは一緒に礼拝。

最初に全体的な説明を受けたあと、すぐにとても長い廊下に出ました。これは百間廊下といって、もとは石川県にあった総持寺が火事で全焼したあと1911年に横浜市鶴見に移転する際に、メインの大きな建物を2箇所に分けて長い廊下でつなげば万が一どっちかが燃えても全部パーにはなりにくいという発想からできたとのこと。百間廊下の途中の、段になっていてすぐ脇の外の地面に降りられるようになっているところで、「廊下の側面と表面を見比べてみてください」とガイドのお坊さん。表面はどこまでもツルツルピカピカ、側面はボロボロのゴワゴワ。それは一日二回の拭き掃除の作務が40年続いた結果だそうです。ひゃあぁ、すごいっ。

百間廊下を抜けると、今度は廊下の左側にいきなり若い雲水さんが5人くらいずらっと並んでいて、何事かと思いました。雲水さんたちは私たちの先頭の雲水さんにはもちろん、私たちにも次々と一礼してきたので、私たちも思わずペコペコ。一体その先には何が!?私たちが通り過ぎると、その一団は一列に並び歩いてどこかへ行ってしまいました。案内の雲水さんが指し示す先には、古びた大きな木造の戸口が。「ここから先は僧堂になります。修行中なので中の様子は見られませんが」と言いつつも、戸口を開けて入り口だけ見せてくださいました。するとそこには、通路の壁づたいに縁先のような狭いスペースがあり、その上には座布がずらり。ファンシィダンスでも見覚えがあるこの光景はもしや・・・そう、まだ入門を許されていない雲水たちがそこで座禅しながら許しを待つところ。戸口の脇には木製の鳴り物も据え付けられており、打たれ続けて真ん中が丸く擦り減っているあたりに、年季が感じられます。

大雄寶殿 あの玄関 僧堂の外観


他には、法要中とかで入れないお堂も多かったですが、修行の様子のパネル写真が展示されている地下の廊下を歩いたり、一番偉い禅師様の居室がある迎賓館的な建物の襖絵に圧倒されたり。左の写真は中国から移築されたお堂「大雄寶殿」。今は扉の穴から中を見られますが、昔は非公開で、与謝野晶子が懇願して開けてもらった際に石造の床の鏡のような輝きに大感動したそうです。一番右のは修行に使うお堂。真ん中の写真は、上山したてホヤホヤの雲水さんが立ったまま3時間くらい待たされるという玄関口です。これもなんだか、ファンシィダンス読んだ後だと情景が目に浮かんでしまうっ。最後に、入り口近くまで戻ってきて自称木造日本一という像高180cmの大黒天像に一礼。この場所は食事を作る典座寮(てんぞりょう)の真裏に当たり、また僧受付の入り口正面に当たるため、台所を守ると同時に訪れる人の幸福を願って作られたそう。この正面の玄関には、柱と間違えるくらい巨大なすりこぎとしゃもじも据えられていたりします。この辺りは内部拝観するまでもなく見える場所とはいえ、言われないとなかなかわからないかも。

ここでとうとうツアー終了、と思いきや、一緒にいた拝観者の一人が、案内の雲水さんに「あなたは上山して何年になりますか」と質問しました。すると、「二年になります。ちなみに実家のお寺の事情などで早い人もいて、一番短くて半年から9ヶ月くらいになりますが一応は一年が目安です。あんまり早いと檀家から色々言われたりするので(笑)。」との答え。そして「修行はきついですか?」と続けて質問されると、「私は上山当時、体重が110キロありましたが、2ヶ月後には20キロ減りました。まあ娑婆での生活がよほど悪かったんでしょうねえ・・・」ってどんだけよ(涙)。そういえばこの人、案内の途中にも一度、自分の衣の袖を踏んでしまったりしてました。もしかしてサイズは当時のまま・・・まさかね!?そんな感じで、微妙な空気の中、お礼を言ってツアー終了となりました。

そのあと一人で境内を散策し、一番大きなお堂「大祖堂」に外から入ってみると、ちょうど雲水さんたちが「殿行(でんなん)」の練習中。「殿行(でんなん)」とは、お勤めのときに一組19㎏もある経典をスタイリッシュに運ぶ役目。ファンシィダンスでは主人公がそのかっこよさに憧れるも、いざ自分にその役が回ってくると超体育会系なしごきと全身の筋肉痛に悪戦苦闘、なんてエピソードもあります。これもまた、あのシーンが目前にありありと・・・という感じで、心の中で「がんばれ~」と叫びながらついつい見入ってしまいました。ビシッと号令がかかったり、先輩の指示に全員そろって大声で返事したりと、たしかに体育会系。季節によって行事なども違うので、もしかしたらその時々で色んな様子が見学できたりするかもしれません。それと、帰り際にはなんか酒屋の出前のスクーターが迷ったように境内をうろうろしているのを見つけました。これも誰か修行僧がこっそり出前とったりでもしたのかな、なんて想像してしまったり。

今回わかったのは、ファンシィダンスを読んでから禅寺を見学すると、何倍も面白く見られるということです。それに、こんなに近くに生き生きとした本格的な禅寺があるということが、ささやかな発見でした。つうわけで、レッツ禅。
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鏑木麻矢

Author:鏑木麻矢
文筆家。現在、初の著書を執筆中。2012年5月から2014年12月まで、㈱H.I.S.公式ブログとして「麻矢の不思議カワイイ!?ご利益モノがたり」連載。現在、当ブログ内にすべて再録。縁起物をこよなく愛する。巷間の多種多様なおみくじを収集・研究中。絵馬コレクターでもある。かつて、仏像マニアのテレビ番組に出たことも。全ては神社仏閣・仏像巡り趣味から始まっている。旅と町歩き・路上観察、手仕事なモノ(郷土玩具、民藝)、美術鑑賞(月に最低2回位は美術館博物館に行くのが癒し)、古風なもの、レトロな雰囲気などが好き。何にせよ、知られざる面白いモノゴトを自分なりに発見していきたいです。他、天然石・鉱石やトランプ・カード等、気まぐれかつ雑多な収集癖あり。以前、下手の横好きでオペラを習ったこともあったり(今も観賞大好き)。何でもとことんハマるのが生き甲斐(悪癖?)。

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