ふたたび、聖林寺十一面観音。

 関連記事→ 仏像に恋した一人の男の話 

 上記の記事でも書いたが、この仏像は本当に、とらえどころが難しい。実際に一度訪れて見たならば、よくある図版の写真とのあまりの違いに衝撃を受けるはずだ。図版だけでは正直なところ、まあなんだ、こういう顔か、それに肩こりしそうな硬い姿勢だな、というくらいの印象しか持てないのだが、生でみると、これはこうだ、という視線があまりにも定まりがたい。そして、それ以上に、やわらかで軽やかな動きを感じることにおどろく。もちろん、仏像の割に目鼻立ちが案外はっきりしていないだとか、そういったような原因はあるのかもしれない。だが逆にそのことが、見る者の一瞬一瞬の息づかいに合わせていくらでも姿を変えるという無限の可能性をこの像に与えている。

 強いて言うなら、昨日、三井美術館の「奈良の古寺と仏像」展のショップでたまたま目にとめた写真集の表紙に使われている写真は、あのとき私が抱いた印象に一番近いと一目で思えた。



極楽園 三好和義

 それはどうやら、この写真集をひととおりながめてみればわかることだけれど(ていうか高すぎて立ち読みしかできないのが悔しい!)、巻頭で玄侑宗久さんが推薦文に書いているように、「仏像たちがふと油断した一瞬」をとらえているからだ。道理でそこには、私がみた、まるで常にどこか動いていて静物としてはとらえきれない姿のかけらがうまく切り取られていた。そしてその写真の顔の表情は、仄暗くどこまでもやわらかい。

 今これを書くにあたって検索してみて知ったことだが、この三好和義さんという人は、べつに仏像写真家というわけではない。どうも「楽園」というテーマで、南の島や聖地などを撮り続けているようだ。四国巡礼なども取り上げているあたりから、何だかダイナミックで生き生きとしたユートピアの姿が想像できる。そんな作者の視点だから、やはり静物としての仏像ばかり見ているのとは違ってくるのだろう。よくぞまあ、ここまでやってくれたなと思う。そのくらい、この観音はとらえどころがないと私は感じている。

 私は以前、仏像ブームの頃には、ご多分に漏れず仲間うちで冗談めかして仏像を語ったりもしていた。だが、この聖林寺の十一面観音を生でみた日には、そう言った種類の想像は微塵も出てこなかった。こんなことは初めてだ。とにかく、この衝撃を説明するのは難しい。上にリンクした長い散文が、私にできる精一杯の表現だった。何か、この観音が、中途半端な言葉を許してくれない気がする。どうやったって、遊び心を交えて語るということがしっくりこない。

 そう思ってふと、いとうせいこう・みうらじゅん「見仏記」のページをめくってみる。するとどうだろう、みうらじゅんさんは「この人の顔、描きたくなるねえ」と言いながら、実際には後ろ姿しか描いていないではないか。それだけ、この仏の顔をわかりやすく的確にとらえるのは難しいということだろう。

 実はかく言う私も以前、この仏像を図版でしか知らなかった頃に、半分冗談で「どことなく白洲正子さんに顔が似ているなあ、人は自分の顔に似ている仏像をイチオシしたくなるものかねえ」などと言ってみたことがある。今なら言える。それは違う。観音像がではなく、むしろ白洲さんがこの観音をリスペクトするあまり、年取るほどにだんだんと似てきてしまったのではないか、なんて思ってみたくなる。

 本当に、それくらい強烈な、不可解な魅力をもつ仏像なのだ。思いがけず私の魂の仏像ベスト3の座をいきなりかっさらっていった、超有名で歴代の文化人によるイチオシも多い割にはキャッチーな人気とかけ離れたところにいる孤高の存在。そんな聖林寺の「あの」十一面観音に、こんなもんかなんて思わないで、ぜひとも会いにいってほしい。仏像って、ナマで会って初めて本性に気付くことが驚くほど多いんだから。
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鏑木麻矢

Author:鏑木麻矢
文筆家。現在、初の著書を執筆中。2012年5月から2014年12月まで、㈱H.I.S.公式ブログとして「麻矢の不思議カワイイ!?ご利益モノがたり」連載。現在、当ブログ内にすべて再録。縁起物をこよなく愛する。巷間の多種多様なおみくじを収集・研究中。絵馬コレクターでもある。かつて、仏像マニアのテレビ番組に出たことも。全ては神社仏閣・仏像巡り趣味から始まっている。旅と町歩き・路上観察、手仕事なモノ(郷土玩具、民藝)、美術鑑賞(月に最低2回位は美術館博物館に行くのが癒し)、古風なもの、レトロな雰囲気などが好き。何にせよ、知られざる面白いモノゴトを自分なりに発見していきたいです。他、天然石・鉱石やトランプ・カード等、気まぐれかつ雑多な収集癖あり。以前、下手の横好きでオペラを習ったこともあったり(今も観賞大好き)。何でもとことんハマるのが生き甲斐(悪癖?)。

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