穴八幡宮(東京)・猿年

午(うま)年?いいえ、申(さる)年です。
どうみても馬が主役っぽいから、まぎらわしいけど。
そもそも絵馬は神社に馬を献上するかわりとして出発したものだから、馬が主役なのは自然なこと。
特に八幡神は武士の守り神なので、各地の八幡神社では今でも神馬や木馬を目にすることは多いはず。
それにしてもこの猿、馬を引っ張っている割にはずいぶんと腰の低い印象です。
せっかく干支だというのに「どや顔」することもなく、目立たなすぎて完全に馬に食われてしまってます。
だけどあえて情けない感じだからこそ、日々頭を下げて周りを気にしなければならないことが多い現代人には、なんとなく共感できるものがあるかも。
実はこの絵柄、「河童の駒引き」という伝承がもとになっています。河童がいたずらで馬を池や沼の中に引きずり込もうとするのですが、逆に馬に引っ張られて負けてしまうという少々間抜けなお話。地域によっては河童と猿を近いものとみなすところもあるので、同じような「猿の駒引き」もあるというわけ。いずれも干支とは関係なく、馬を捧げる代わりとしての絵馬の絵柄のバリエーションでした。この穴八幡宮の絵馬は、猿年だし八幡宮だし丁度良いということで、これをモチーフに選んだのでしょう。
河童は水神の零落した姿ともいわれており、そんなエピソードをルーツに持つ絵柄は、水神に馬を捧げるという絵馬の原型的な営みを彷彿とさせます。その中にみえる、一種の情けなさ。馬は人間の飼っているもので、かつ神様の乗り物とされます。河童から猿になると、こちらも少し人間に近いような気がしてくるけれど、それでもやはり野生の生物。馬と、河童あるいは猿との対決は、人間と何か言い知れぬ大きな力との葛藤の物語なのかもしれません。
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