【特別編】桐生「芭蕉」に絵馬と棟方志功の壁画を訪ねて・其の参

序章

其の壱

其の弐

↑前回まではコチラ

 

かの棟方志功の壁画のみならず、こだわりぬかれた理想郷的空間とそれを彩る絵馬や古民具・民芸品たち、そして何から何まで手作りの美味しいお料理にはただただ圧倒されるばかりでした。

 

そんな「芭蕉」の、それこそ奥の院とも言うべきは、帳場の裏の大きな絵や民具が最も密集した一角を隠れて見守るかのようにひっそりとたたずむ先代店主の部屋。この部屋もまた、入り口はともすれば見過ごしてしまいそうな低くて目立たない引き戸になっています。そっと開けると、中はもう最高密度。

 

↑この障子戸を開くとそこには・・・。 

 

うなぎの寝床のような細長くて狭い部屋には、足の踏み場もやっとというほど、どこを見回してもぎっしりと民芸品・古民具・古い小絵馬のコレクションが埋め尽くしています。

 

 

一番奥には茶の湯関係の書籍がひときわ目につく本棚があり、その手前には先代店主・小池魚心さんの写真が部屋中の愛しい物たちを見渡すかのようにそっと置かれていました。

 

 

さらなる好奇心にとらわれ夢中で見とれていると、ふいに現店主・小池一正さんが起きていらしたとの知らせが!その日は季節の変わり目で体調が思わしくなくお休みされているはずでしたが、ひさしぶりに絵馬談義ができると喜んで、病体を押してお話しに来てくださったのです。壁画の発掘を英断しそこに立ち会った、歴史の生き証人の登場です。

 

↑左が小池一正さん。 

 

ご自身の描かれた絵馬を持って、昔を懐かしく思い出しながら楽しそうに語る小池一正さん。先代の小池魚心さんも一正さんも絵が大好きで、お二人とも本当は美大に行きたかったほどだそうです。店内に飾られた小池一正さんによるあの大作の版画も、擦り師の人選にまで徹底的にこだわった情熱の結晶なのでした。お店のアルバムの中などにさりげなく貼り込まれた多色擦り版画の小品も、すべて小池一正さんの作品です。

 

プロの画家になることこそ叶わなかったかもしれないけれど、お二人の芸術を愛する心は別の形でゆっくりと結実していきました。先代・小池魚心さんの審美眼といったら、棟方志功が無名の頃からすでに大ファンだったほど。ですが、その棟方志功に依頼した壁画を、描かれたその日のうちに、作家本人に知れて失礼にならないよう気を遣いつつ「お店の雰囲気に合わない」と塗りつぶしてしまったのは、もはや有名な話となっています。非常に好きな作家であったにもかかわらず敢えてこうまでするというのは、一流芸術家にも決して負けない、芯の強い美意識を持ち続けていたからこそと言えましょう。つまり、とりもなおさずお店の全体そのものが、それほど強烈な世界観をすでに持ち合わせているということなのです。そのとき壁画の上に漆喰を塗り込めた職人さんも、その55年後に掘り出した職人さんも、どれだけの敬意と情熱をもってその作業をやり遂げたのかということを、小池一正さんのお話からありありと伺い知ることができます。

 

 

↑漆喰で塗りつぶされていた頃、この場所には絵馬をたくさん飾っていたとか。

 

坂口安吾が通い、茶人・職人・学者などからも愛され、最も新しくは現代美術家の山口晃さんが近所に住んでいて子供の頃よく遊びに来ていたというこのお店。今時珍しい土壁の木造建築も、選び抜かれたあらゆる調度品・装飾品も、無数の民俗的コレクションも、そんな人々とのつながりの中で育まれてきました。独特の美意識への並々ならぬこだわりと、その熱い思いのもとに集った文化人・芸術家たちとが互いに結び合い、こうして共に重ねられた百年にも及ぶ時間が、この「芭蕉」という場そのものをひとつの総合芸術たらしめているのです。もっと詳しくは、下の動画で、現店主・小池一正さんのお話にしばし耳を傾けてみてください。

 

USTREAMの動画でお話を伺っています。

ぜひご覧ください。ここをクリック!

  

 

小池一正さんお手製の幻想的な絵馬も、こちらでご覧いただけます。先代・小池魚心さんがよくテレビや新聞などのメディアに顔を出したのに対し、小池一正さんはそういったものに出たことが一度もなく、ご家族の歴史としても貴重な映像となりました。谷中の「絵馬堂」からつながったこの縁を、自分だけのものにしなくて良かったと心から思います。この映像は「旅するスタジオ」さんに録っていただきました。「芭蕉」さん、「絵馬堂」さん、「旅するスタジオ」さん、何から何まで、本当にありがとうございました。

 

収録が終わったあとで、「あきらちゃん、今どうしているかなあ・・・」と山口晃さんを案じる小池一正さん。今でこそ売れっ子天才芸術家の山口晃さんも、ここで思い起こされるのは、建物の興味深い造りや、そこに置かれた数々の不可思議な物たちを、さながら秘密基地のように無邪気に楽しむ子供の姿です。

 

 

この場を辞すにあたり、先代店主の部屋の前を通るとまた、色々な物が飾られているのを見て、はずむ話は止まらなくなります。ここに大量に吊るされ、客席にも一つずつ置かれた鳴り物=音具の数々は、友人の研究者が日本中から集めてきたものだそうです。鐘・鈴・太鼓から、時代劇で侵入者が来るとカランコロンいうあの「鳴子」まで、あらゆるものが揃っています。絵馬も、これはどこの何で・・・とやりはじめると、楽しくて楽しくてきりがなくなるほど。名残惜しいけれど、また何度でも訪れたい場所です。これからも末永く濃密な時空を紡ぎ続けてほしいと願ってやみません。思いっきり楽しんで味わって、先人たちの思いに触れれば、都会の喧噪の中で忘れていた感覚を呼び戻せるはず。そして次の時代を共にするのは、あなたかもしれませんよ!

 

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鏑木麻矢

Author:鏑木麻矢
文筆家。現在、初の著書を執筆中。2012年5月から2014年12月まで、㈱H.I.S.公式ブログとして「麻矢の不思議カワイイ!?ご利益モノがたり」連載。現在、当ブログ内にすべて再録。縁起物をこよなく愛する。巷間の多種多様なおみくじを収集・研究中。絵馬コレクターでもある。かつて、仏像マニアのテレビ番組に出たことも。全ては神社仏閣・仏像巡り趣味から始まっている。旅と町歩き・路上観察、手仕事なモノ(郷土玩具、民藝)、美術鑑賞(月に最低2回位は美術館博物館に行くのが癒し)、古風なもの、レトロな雰囲気などが好き。何にせよ、知られざる面白いモノゴトを自分なりに発見していきたいです。他、天然石・鉱石やトランプ・カード等、気まぐれかつ雑多な収集癖あり。以前、下手の横好きでオペラを習ったこともあったり(今も観賞大好き)。何でもとことんハマるのが生き甲斐(悪癖?)。

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